業務の効率化や経営情報の可視化に悩んでいる経営者や管理者の方の中には、ERPに興味を持っている方は多いのではないでしょうか。
ERPは、企業のさまざまな業務を一元管理するシステムです。しかし、複雑なシステムであるため、導入を成功させるには、その特徴をよく理解しなければなりません。
本記事では、ERPの主な機能や代表的な製品、メリット・デメリット、導入成功のポイントをわかりやすく解説します。
経験豊富なメディアラボのIT専門家が、一つひとつのご相談に丁寧に対応させていただきます。
ERPとは
ERPは「Enterprise Resource Planning」の略称で、日本語では「企業資源計画」と訳されます。企業の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を統合的に管理し、業務効率化を図るためのシステムです。
ERPを導入することで、企業は会計や販売、生産、在庫など企業のさまざまな業務プロセスを一元化し、リアルタイムでの情報共有・活用が可能になります。
ERPの歴史は古く、1973年にドイツのSAP社が世界初のERPをリリースしたのが始まりです。1990年代から日本でも導入が進みますが、高額なため、かつては大企業向けが中心でした。
しかし近年は、クラウド型ERPが普及し、中小企業でも導入しやすくなりました。また、AIとの連携による高度な分析や予測が可能となり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を支えるツールとしても進化を続けています。
ERPとほかのビジネスソフトウェアの違い
ERPは、企業の業務プロセス全体を統合的に管理する点で、ほかのビジネスソフトウェアと一線を画しています。
一般的な会計ソフトや顧客管理システム(CRM)が特定の業務や部門に特化しているのに対し、ERPはこれらの機能を統合し、データを一元管理する点が特徴です。個々のビジネスソフトウェアをそれぞれ導入する場合、データの連携に手間がかかり、重複作業やデータの不整合が生じるリスクがあります。
一方、ERPではリアルタイムで各機能が連携するため、重複作業やデータ不整合の心配がありません。これにより、業務効率を大幅に向上させ、企業全体の統制を強化できる点がERPの最大の強みです。
ERPの主な機能
ERPは企業の幅広い業務に対応する機能を備えています。
代表的な以下の6つの機能を簡単に紹介します。
- 財務・会計管理
- 人事管理
- 生産管理
- 販売・購買管理
- 在庫・物流管理
- 顧客管理(CRM)
財務・会計管理
財務・会計管理は、総勘定元帳や売掛金・買掛金の管理、財務諸表の作成から、予算管理、資金繰り管理まで、会計業務を幅広くサポートする機能です。企業の財務状況の正確な把握や、効率的な管理を実現します。
人事管理
人事管理は、従業員データの一元管理から給与計算、勤怠管理、人材育成まで、人事に関わる業務を総合的にサポートする機能です。従業員のスキルや評価情報を管理し、適材適所の人員配置や効果的な人材育成計画の立案に活用できます。
生産管理
生産管理は、製造プロセスを一括管理し、生産計画の策定や進捗管理、在庫の適正化をサポートする機能です。生産スケジュールやリソースを最適化し、納期遵守や生産コストの削減を実現します。
販売・購買管理
販売・購買管理は、受注から出荷、請求までの販売プロセスと、発注から入荷、支払いまでの購買プロセスを管理する機能です。販売業務と購買業務をシームレスに連携させることで、供給チェーン全体の効率化を実現します。
在庫・物流管理
在庫・物流管理は、原材料から完成品までの在庫状況をリアルタイムで把握し、最適な在庫水準の維持をサポートする機能です。また、配送計画の最適化や追跡管理により、物流コストの削減も実現します。
顧客管理(CRM)
顧客管理(CRM)は、顧客情報の一元管理から、営業活動の支援、顧客サポート、マーケティング活動まで、顧客とのあらゆる接点を管理する機能です。顧客満足度の向上や、長期的な顧客関係の構築を支援します。
ERPの導入形態
ERPの導入形態には、大きく以下の2通りがあります。
- パッケージ型
- クラウド(SaaS)型
それぞれの特徴を解説します。
パッケージ型
パッケージ型は、自社サーバーに既存のソフトウェアをインストールして利用する従来型の導入形態です。
パッケージ型では、自社の要件に合わせて一定程度のカスタマイズが可能で、データ管理やセキュリティ対策も自社でコントロールできます。一方で、導入コストが高額になる場合が多く、導入後のシステム運用や保守の体制も必要です。
そのため、長期利用を前提とした、独自の業務プロセスや機密性の高いデータを持つ大企業向きの形態といえるでしょう。
クラウド(SaaS)型
クラウド(SaaS)型は、インターネットを介してサービスを利用する形態です。
初期費用を抑えて迅速に導入でき、クラウド事業者がシステムを運用・保守するため、導入後の自社の負担も軽減できます。一方で、カスタマイズの自由度が低いことや、継続的に利用料の支払いが発生する点には注意が必要です。
初期投資を抑えたい中小企業や、ITリソースが不足している企業に向いているでしょう。
ERPを導入するメリット
企業の基幹業務を統合的に管理するERPの導入には、多くのメリットがあります。
代表的な3つのメリットを見ていきましょう。
業務の効率化
ERPの導入により、企業のさまざまな業務が自動化され、業務効率が向上します。
従来、手作業で行っていたデータ入力や集計作業がシステムによって自動化されることで、人的ミスを減らし、作業時間の大幅な削減が可能です。また、ERPはさまざまな業務プロセスを統合し一元管理するため、業務間の連携がスムーズになり、無駄な作業を削減できます。
こうした効率化により、従業員は付加価値の高い業務に集中できるようになり、企業全体の生産性向上が期待できるでしょう。
経営情報の可視化
ERPは、企業全体のデータを一元管理し、リアルタイムで経営情報の可視化を実現します。
ERPによって在庫状況や売上、財務状況などを迅速に把握できるため、経営者や管理者はスピーディで的確な経営判断が可能です。また、ERPのデータ分析機能を活用すれば、将来の需要予測や潜在的な問題の早期発見も可能になります。
こうした経営情報の可視化により、変化する市場環境に柔軟に対応できるようになり、企業の競争力強化につながるでしょう。
部門間の連携強化
ERPを導入することで、各部門の情報を統合して管理でき、部門間の連携強化が可能です。
連携強化により、部門間でのコミュニケーションの齟齬や、情報が共有されない「サイロ化」の問題が解消されます。例えば、販売部門が受注した情報が自動的に在庫管理や生産管理に反映され、全体的な業務フローのスムーズな進行が実現可能です。
これにより、業務プロセスの無駄が削減され、リードタイムの短縮や顧客サービスの向上につながります。
ERPを導入するデメリット
ERPの導入には多くのメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。導入を検討する場合には、デメリットをよく理解しておくことも重要です。
ERP導入3つのデメリットを解説します。
初期費用の高さ
ERPシステムの導入では、特にパッケージ型の場合、初期費用が高額になることがデメリットの1つです。
ソフトウェアのライセンス費用やハードウェア購入費に加え、カスタマイズ費用なども発生します。中小企業にとっては、高価な導入コストは大きな負担となり、ERP導入を躊躇する要因です。
しかし、必ずしも全機能を導入する必要はなく、必要な機能に絞ってモジュール単位でも導入できます。また、近年は初期費用を抑えられるクラウド型ERPも広がっているため、選択肢として検討すると良いでしょう。
業務プロセスの見直しが必要
ERPの導入効果を最大限に引き出すためには、現行の業務プロセスをERPに合わせて見直す必要があります。
業務プロセスの見直しは、企業にとって大きな負担となり、特に現場の従業員から抵抗を受ける場合もあるでしょう。従業員が新しいプロセスに慣れるまでに時間がかかり、その間に生産性が一時的に低下するリスクも考えられます。
段階的な導入や従業員への丁寧な説明を行うことで、業務プロセスの見直しによる影響の緩和が可能です。
操作習熟の負担
ERPは多機能で複雑なシステムであるため、操作に習熟するには時間と労力がかかり、大きな負担となります。
習得期間中は業務効率の一時的な低下や、データ入力ミスによる情報の不正確さなどのリスクは避けられません。さらに、従業員個々の習熟度の差により、部門間や従業員間の業務効率に格差が生じる恐れもあります。
問題を軽減するためには、導入前後の十分なトレーニングの実施や、丁寧な操作マニュアルの準備が効果的です。
ERPの代表的な製品
ERPは、多くのベンダーからさまざまな製品が提供されています。
代表的な3つのERP製品を紹介します。
SAP ERP
「SAP ERP」は、ドイツのSAP社が提供する世界最大のシェアを誇るERPシステムです。
主な製品ラインナップに、大企業向けの「SAP S/4HANA」や中小企業向けの「SAP Business One」があり、幅広い業種や規模の企業に対応しています。豊富な機能と高度なカスタマイズ性を備えており、企業のニーズに合わせて柔軟に対応可能です。
Oracle ERP
「Oracle ERP」は、米国のOracle社が提供する、SAP ERPと並ぶ世界的なシェアを誇るERPシステムです。
主な製品ラインナップに、中堅・大企業向けの「Oracle Fusion Cloud ERP」と中小企業向けの「Oracle Netsuite」があり、幅広い規模の企業ニーズに対応しています。特に高度な財務管理機能に強みがあり、AIや機械学習技術を活用したデータ分析や業務の自動化が特徴です。
Microsoft Dynamics 365
「Microsoft Dynamics 365」は、Microsoft社が提供するクラウドベースのERPシステムです。
ERPとCRMの機能を統合しており、企業の業務プロセス全体を一元管理できます。また、Office 365やPower BIなど、他のMicrosoft製品との高い親和性が特徴です。ユーザーにとっては慣れ親しんだインターフェースで操作できるため、学習コストを抑えられる利点があります。
ERPの導入を成功させるポイント
ERPは多機能で複雑なシステムです。無計画に導入しても、十分な効果を得られない可能性が高いでしょう。
ERPの導入を成功させる3つのポイントを解説します。
明確な目標設定とKPIの設定
ERPの導入を成功させるためには、明確な目標設定とそれに基づくKPI(重要業績評価指標)の設定が重要です。
単に「業務効率化」といった漠然とした目標ではなく、「在庫回転率を〇%向上させる」や「経理業務の工数を〇%削減する」など、具体的な数値目標を設定します。目標とKPIが不明確だと、プロジェクトが迷走したり、投資対効果(ROI)の評価が困難になったりするでしょう。
自社で目標やKPIの設定が難しい場合は、外部コンサルタントの知見を借りることも有効です。
経営層のコミットメント
ERPの導入成功には、経営層の強力なコミットメントが求められます。
ERPは全社的な業務改革を伴う大規模なプロジェクトであり、組織全体の協力が必要です。経営層が導入に積極的に関与しないと、現場にERPの重要性が伝わらず、導入がスムーズに進まない可能性があります。
定期的な報告会や進捗確認を行い、経営層が積極的にコミットする体制を整えることが重要です。
現場利用者の積極的な参画
ERPシステムの導入を成功に導くには、実際にシステムを使用する現場従業員の積極的な参画も欠かせません。
導入したシステムを使って実際に成果を出すのは現場の従業員です。ニーズに合わないシステム導入は、運用に支障をきたし、定着率が低くなる恐れがあります。
導入プロセスの初期段階から現場担当者を巻き込み、意見やフィードバックを反映して協力体制を築くことが重要です。
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まとめ
ERPは、会計や販売、生産、在庫など企業のさまざまな業務プロセスを一元化して統合的に管理するシステムです。
ERPの導入には、業務の効率化や経営情報の可視化などのメリットがある一方、業務プロセスの見直しや複雑な操作を習熟する負担がかかります。ERPの導入を成功させるためには、明確な目標設定と、経営層から現場従業員まで全社を巻き込んだ対応が必要です。
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